中河内医療圏初!「腹部ヘルニアセンター」開設

谷田 司
たにだ つかさ
- 役職
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- 腹部ヘルニアセンター センター長
- 資格
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- 日本外科学会認定 外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会認定 消化器外科専門医・指導医
- 日本内視鏡外科学会認定 技術認定取得者(大腸)
- 日本内視鏡外科学会認定 ロボット支援手術認定プロクター(大腸)
- 手術支援ロボットda Vinci サージカルシステム術者資格認定
- 日本ロボット外科学会 認定専門医(国内A級)
腹部ヘルニアとは?
「腹部ヘルニア」とは体壁が年齢や外因により弱くなりできた孔が出口となり、腹圧を持ちこたえられず、腸管などの内臓が押し出されたものです(図1)。
中でも鼠径ヘルニアは男性に多く、男性の3~4人に1人に発症する頻度の高い疾患です。症状は鼠経部の膨らみですが、放置すると嵌頓して腸管壊死を引き起こし重篤な状態になる可能性があります。その他の「腹部ヘルニア」も比較的頻度が高い疾患です。脱出する部位、成因により様々な「腹部ヘルニア」があります(図2)。

(図1)腹部ヘルニアのイメージ

(図2)主な腹部ヘルニア
「腹部ヘルニアセンター」の存在意義
多くの患者さんが「腹部ヘルニア」で悩まれて医療機関を受診されますが、「腹部ヘルニア」を専門として治療している医療機関は全国的にも少なく、質の高い十分な治療を患者さんに提供できているとは言えない状況です。大阪府下で「腹部ヘルニアセンター」を設置している病院は5施設のみで、当センターは中河内医療圏では唯一の存在です。「腹部ヘルニアセンター」では、他の医療機関では実現できない専門的かつ高度な治療を患者さんに提供します。
腹部ヘルニアセンターで提供できる治療
センター長の谷田は日本ヘルニア学会に所属し、日本ヘルニア内視鏡外科手術手技研究会、関西ヘルニア研究会、阪神ラパヘル(腹腔鏡下ヘルニア)研究会にて世話人を務め、国内の「腹部ヘルニア」治療の普及に注力しています。また、国内の多くの学会、研究会にて司会、講演を行うなど、全国的にも「腹部ヘルニア」治療の先駆者として活動しており、多くの知識と治療経験があります。また、センターの全医師(下写真)は初期研修医の時から長年に渡り「腹部ヘルニア」手術を経験しています。
従来「腹部ヘルニア」治療は傷の大きな開腹手術で行うことが多かったですが、医療機器、手術技術の進歩により低侵襲な腹腔鏡手術を積極的に導入しています。腹腔鏡手術により傷が小さく、痛みが少ない手術が可能となったため術後の早期退院、社会復帰ができるようになりました。また、「腹部ヘルニア」には治療後の再発例や長年放置されてきた治療が困難な症例も含まれますが、他の医療機関では対応困難と言われるような「腹部ヘルニア」患者さんの治療にも対応させて頂きます。
腹壁ヘルニア手術の症例数の推移
過去5年の腹壁ヘルニアの症例数の推移(図3)と鼠径ヘルニアの術式別の症例数の推移(図4)をお示しします。
近隣地域の先生方からのご紹介や患者さんご自身が「腹部ヘルニアセンター」で治療を受けたいと希望して頂いたおかげで、手術症例数は右肩上がりに増加しています。
2024年には226例の腹部ヘルニア手術を施行し、過去最多の症例数でした(内訳は鼠径ヘルニア188例、腹壁瘢痕ヘルニア19例、臍ヘルニア14例、その他5例)。
また、2024年の鼠径ヘルニア手術も過去最多の症例数であり、腹腔鏡手術が122例、ロボット支援手術が47例、鼠経切開法が15例でした。この成績からも、患者さんの疾患の状態や程度に対応して幅広い術式の選択が可能となっています。また患者さんの希望に寄り添った治療の実現を目指しています。

(図3)腹壁ヘルニアの症例数の推移

(図4)鼠径ヘルニアの術式別の症例数の推移
最先端のロボット支援手術を鼠径ヘルニア手術に応用
ロボット支援手術は手振れ補正機能や多関節機能や3Dカメラによる拡大視効果により精密で安全な手術を実現しました。近年、ロボット支援手術は多くの疾患で保険適応が認められ、症例数も急速に増加しています(図5)。

(図5)国内のロボット支援手術の症例数の推移
当院では2018年にダビンチXiを導入し、現在泌尿器科、婦人科、消化器外科領域にてロボット支援手術を施行しています。また、2021年より院内倫理委員会の承認を得て、ロボット支援鼠径ヘルニア手術を導入しました(図6)。現在(2025年3月)まで症例数は100例に達し、西日本では最多の症例数を誇っています。

(図6)ロボット支援手術の鼠径ヘルニア手術への応用
2022年には国内の臨床試験(鼠径部ヘルニア患者に対するロボット支援下鼠径ヘルニア修復術の 短期成績の検討-多機関共同,前向きコホート研究(ROB-HER study))に参加し、周術期の安全性に関するデータを集積し、国内のロボット支援鼠径ヘルニア手術の安全性に関するエビデンスの構築に寄与してきました。 また、ロボット支援手術の本場である米国の病院に手術視察し、現地医師の指導を受けることにより、海外の最新の手技を導入しています。ロボットの多関節で繊細な手技が生かすことにより、ヘルニア手術においてミリ単位の精緻な手術操作が可能になりました。今までの手術成績では出血は中央値でゼロであり、ロボット支援手術は腹腔鏡手術と比較し有意に手術時間の短縮を認めています。この結果からロボット手術は患者さんにとって身体への負担がより小さい手術と言えます。今後も多くの患者さんに最先端の医療を提供できる施設となることを想定しています(図7)。

(図7)ロボット支援鼠径ヘルニア手術のメリット
日本全国から手術見学多数
私たちの「腹部ヘルニアセンター」には全国から多数の先生方が手術見学に来院されます。2024年だけでも30施設を超える先生方が最先端のロボット支援鼠径ヘルニア手術を見学されています。また、6施設が新規にロボット支援鼠径ヘルニア手術を導入に際して、手術指導を行いました。
腹部ヘルニアセンターの地域医療への貢献
「腹部ヘルニア」手術は日本外科学会では低難易度手術に分類されます。しかし、「腹部ヘルニア」手術には剥離、結紮、縫合などの外科教育における重要な基本手技が多く含まれます。また、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術と様々なアプローチが可能です。私たちは基本の手術手技をおろそかにせず、幅広い視点から治療を進めるバランスの取れた外科医の育成を行っています。専門的に治療している病院が少なくたかが「腹部ヘルニア」と言われる疾患でも、患者さんにとってはされど「腹部ヘルニア」であり重大な症状なのです。そのような1人1人の患者さんの訴えに耳を傾け、「腹部ヘルニアセンター」というチームとして治療を進めることで、医療の質を向上させ、より良い医療を市民の皆様に提供することで、地域医療に貢献できるように、センター医師が一丸となって日々精進して参ります。
腹部ヘルニアセンター センター医師

後列左から杢谷、松山、谷田(センター長)、山下、中田(副センター長)
中列左から北尻、谷、石田、佐々木
前列左から小西、中出、田渕、三上、山口